FortiGuard Labs 脅威リサーチ
FortiGuard Labsは最近、DeathRansomという攻撃が進行中であることを確認しました。この新しい亜種に関する最初のブログでは、収集したサンプルの技術的な分析を試みましたが、パート 2ではこのDeathRansom攻撃と他の攻撃との関連性を明らかにし、その背後にいる可能性がある人物を探ります。
まず、前回のブログで紹介したサンプル、13d263fb19d866bb929f45677a9dcbb683df5e1fa2e1b856fde905629366c5e1から調査を始めましょう。このサンプルにはデバッグパスがありますが、使われている言語を特定できませんでした。さらに、9つのリソースがあり、リソースセクションにLANG_SLOVAK識別子定数(0x041B)があります。これは、スロバキア語がデフォルトでインストールされているマシンでサンプルがコンパイルされた可能性があることを意味します。
これらの文字をさまざまな方法で分割し、その結果を各種自動翻訳サービスにフィードすることで、PDBパスをスロバキア語から翻訳しよう試みましたが、いずれの方法でも正しく翻訳できませんでした。「duzuk」という語は、Google翻訳ではスロバキア語ではなく、バスク語として認識されました(英語の「you have」の意味)。
このサンプルは.esドメインゾーン(スペイン)のドメインからダウンロードされたため、バスク語と認識されたのは興味深いことです。このドメインはハッキングされたもののようであるため、ドメイン名の公表は差し控えます。
サンプルのWacatac_2019-11-20_00-10.exeという名前も、同様に興味深いものでした。「Wacatac」という語は、いくつかの異なる意味のある方法でバスク語から翻訳できるため、さらに詳しく調べることにしました。
このファイル名はとてもわかりやすい「名前-日時」の構造であるため、既知のすべてのファイルからこのパターンを探してみたところ、9つのファイルが見つかりました。図3はその詳細を示しています。
この調査の結果は、またしても少々落胆させられるもので、リソースの言語IDがネパール語からスロバキア語へ、次にニュートラル語へ、さらにはスロバキア語へと、目まぐるしく変わりました。さらに、このデバッグパスは人間のプログラマーが使用するパスではなく、マシンで生成された意味不明のもののようです。
したがって、バスク語の痕跡は単なる偶然と結論付けざるを得ませんでした。ただし、スロバキア語とネパール語の痕跡はこれとは異なり、おそらく調査を欺くために意図的に挿入されたものだと考えられます。
このような残念な調査結果にもかかわらず、これらの新しいサンプルからは重要な手掛かりも得ることができました。図3に示すサンプルの1つは、ハッキングされた.esサイトではなく、以下のURLからダウンロードされたものです。
hxxp://bitbucket[.]org/scat01/1/downloads/Wacatac_2019-11-16_14-06.exe
このリンクにはアクセスできず、scat01プロファイルへのアクセスも不可能でした。
それにもかかわらず、このBitbucketディレクトリへのアクセスを試行した他の不正サンプルを探してみたところ、2019年5月の興味深い接続ログが見つかりました。このサンプルは、Vidarスティーラーマルウェアファミリーと関連性があるものでした。
この命名パターンは、明らかにWacatacサンプルと似ています。
Wacatac_2019-11-20_00-10.exe
scat01_2019-05-20_06-13.exe
次に、URLマスクを使用して接続ログを検索することにしました:
bitbucket[.]org/scat01/*
VirusTotalで見つかった接続ログの1つを図6に示します(サンプル:dc9ff5148e26023cf7b6fb69cd97d6a68f78bb111dbf39039f41ed05e16708e4)。
それでは次に、これらの接続を分析してみましょう。緑の枠で囲んだ接続は、さまざまなブラウザからパスワードを抽出する目的で使用する標準Vidarライブラリであるため、Vidarスティーラーを調べたことのある人であれば誰でも知っているはずです。
赤の枠で囲んだ接続は、別のWacatac名の実行可能ファイルにアクセスしようとしています。残念ながら、Vidarサンプルサンドボックス分析中にはこのリンクにアクセスできなかったため、Wacatac_2019-11-16_17-03.exeサンプルは我々の手元にありません。
しかしながら、最初のブログで説明したとおり、DeathRansomは「Wacatac」という名前を使って暗号鍵をレジストリに保存します。したがって、アクセスできないWacatac_2019-11-16_17-03.exeサンプルがDeathRansomの別の亜種であると信じるに足る確かな理由が見つかりました。
つまり、「マルウェアホスティング」が同じで命名パターンも同じであること、そしてVidarサンプルがDeathRansomサンプルをダウンロードしようとしたという事実から判断すると、Vidar攻撃とDeathRansom攻撃がscat01というBitbucketプロファイル名の人物によって実行されたと結論付けることができ、いくつかのマルウェアサンプルにもこの名前が使われています。
そこで、さらに詳しい調査を続けてこのscat01に関する情報を探すことにしました。
最初に、scat01という文字列が含まれる新しいマルウェアを探しました。調査結果を簡単にまとめると、次のようになります。
最後のサンプルは、Webサイトgameshack[.]ruのルートフォルダからダウンロードされたものであり、これは攻撃者が何らかの方法でこのWebサーバーを制御していることを意味します。そこで、このWebサーバーから何か他に見つからないか調査することにしました。
Gameshack[.]ruのルートフォルダから直接ダウンロードされたものの中に多くの不正サンプルが見つかったため、入手できたすべてのサンプルを分析し、調査に役立つ情報を抽出することにしました。
gameshack[.]ruWebサイトで「ホスティング」されていたマルウェアサンプルはダウンローダーでした。これは、ペイロードをダウンロードして実行することが目的だったことを意味します。主なペイロードは以下の2種類です。
Evrialスティーラーのサンプルは難読化されておらず、同じ「Owner」フィールド(scat01)が含まれていました。
Supremeマイナーのサンプルは「NULL SHIELD」によって難読化されていて(Confuser亜種)、電子メールvitasa01[@]yandex.ruが埋め込まれていました。
図11は、マイナー「Supreme.exe」の文字列の一部を示しています(サンプル:1e1fcb1bcc88576318c37409441fd754577b008f4678414b60a25710e10d4251)。このマイナーの本体には、Evrialスティーラーも含まれていました。
ご覧のように、このサンプルは同じiploggerサービスを使用して、感染ホストをDeathRansomサンプルとしてカウントしています(詳細は、最近のブログ記事を参照)。
ここに含まれるEvrialスティーラーのOwnerも、同様に「scat01」です。
この図に示すように、Webサイト「gameshack[.]ru」は攻撃者によって制御されており、scat01の属性文字列が含まれる不正サンプルを配布しています。
ここまでの調査で特定された、攻撃者に関する情報の概要を以下に示します。これには、この攻撃者が関与しているマルウェアファミリーも含まれます。
この人物に関する情報
これらの攻撃者が、ロシアの電子メールサービスとロシアのドメインゾーンである.ruを使用していることは明らかです。また、DeathRansomがシステム言語のチェックを実行して旧ソ連の国のロケールが検知された場合は、ファイルを暗号化しないという事実も覚えておく必要があります。
さらに、このグループが使用しているスティーラーを分析したところ、ロシアの地下フォーラムで購入できることがわかりました。そこで、その地下フォーラムで検索を続けることにしました。
ロシアの地下フォーラムで「scat01」と「vidar」を検索すると、同じニックネームの人物がVidarスティーラーのレビューをロシア語で投稿していることがわかりました。
scat01が別のフォーラムに投稿したフィードバックも見つかりました。今回は、Evrialスティーラーに関するものです。この人物は、すべての情報がこのマルウェアの販売者のサーバーに送られるため、誰かが自分のEvrialスティーラーのログにアクセスすることを危惧しています。
別のロシアの地下フォーラムでは、別のレビューの投稿も見つかりました。このレビューは、Supremeマイナーに関するものでした。
さらに、同じ名前のユーザーが別のロシアの地下フォーラムでも活動していることがわかりました(これ以降、この地下フォーラムを「ロシアの地下フォーラム#4)」と呼びます)。現在このユーザーは、異なる名前で複数のアカウントを作成することを禁止されています。ここで使われているプロフィール画像に注目してください。
この人物のプロフィールが複数の地下フォーラムで見つかったため、さらに検索を続け、情報を比較することにしました。Yandex.Marketにおける製品レビューも見つかりましたが、@yandex.ruドメインで電子メールサービスを提供しているのもこの会社だというのは、興味深い事実です。
このレビューには文章がありません(スコアのみ)が、場所を確認することはでき、Aksay(アクサイ)から投稿されたことがわかりました。Aksayは、ロシアのRostov-on-Don(ロストフ・ナ・ドヌ)近郊の小さい町です(このヒントはまた後で登場します)。
ここにおけるもう1つの重要な手がかりは、レビュアーアカウントのユーザー名であるvitasa01です。この事実は、以前の不正サンプルに見つかった電子メール「vitasa01[@]yandex.ru」にこのレビュアーがアクセスできる可能性が高いことを示しています。
また、このプロファイルで使用されている画像に注目すると、図15と同じ画像であることがわかります。つまり、以下の3点が一致しています。
我々はこの段階で、このYandexプロファイルが「ロシアの地下フォーラム#4」で見つかったscat01プロファイルや、gameshack[.]ruを配布元とするマルウェアに関連していると確信しました。しかしながら、この作成者の本当の身元を特定するにはどうしたらよいでしょうか?そこで我々は、gameshack[.]ruに関する情報を探すことにしました。
Webサイトgameshack[.]ru を宣伝する興味深いYouTubeチャンネルが見つかりました。gameshack[.]ruへのリンクには、「our game portal」という名前が付けられています。
ここでは「SoftEgorka」というユーザー名が使われていますが、「Egorka」は「Egor」という名前のロシア人のニックネームです。アバター画像の参照先もgameshack[.]ruでした。
もう1つの興味深い情報は、Skypeのリンクです。図20に示すように、Skypeユーザー名SoftEgorkaを参照していることがわかります。
「SoftEgorka」というSkypeユーザーを検索したところ、同じくロシアの地下フォーラム#4に以下のユーザープロファイルが見つかり、ここではユーザー名「Super info」が使われていました。
このSkypeアドレスは上記のYouTubeチャンネルに対応しており、このユーザーは、Italy(イタリア)在住であると説明しています。さらに、この人物のメッセージをさらに検索してみたところ、これが真実である可能性があることを示す別の証拠が見つかりました。
「Super Info」の投稿をさらに詳しく調べてみると、ゲームアカウントの販売(Steam、WoT、Origin)に関する記述が見つかりました。ここでは、前述のスティーラーがゲームやゲーム配信の複数のプラットフォームからパスワードを不正取得するものである点に注目する必要があります。これは、進行中のスティーラー攻撃へのSuper infoの関与の可能性を示す、間接的な証拠です。
Contacts(連絡先)セクションには、「Skype: SoftEgorka」とWebMoney ID: 372443071304が記載されていますが、これと同じWMIDが、同じユーザーによる別の投稿にも記載されていました。また、Steamアカウントの販売とも関連性がありますが、今回はnedugov99という別のSkypeプロファイルが記載されています。
次に、この新しいSkype IDで検索してみたところ、ゲームアカウントの販売に関する古い広告が見つかりました。
ここには、次のような重要な情報が表示されています。
ユーザー名:undefined_Nedugov
Skype ID:nedugov99
電話番号:+7951****311
Vkontakte SNS id: id154704666
携帯電話の番号を調査したところ、「Rostov-on-Don」地域のものであることがわかりました。
次に、VK id154704666のプロファイルを調べてみました。
「Egor」という名前は地下フォーラムでのニックネームの1つである「SoftEgorka」に、「Nedugov」という姓はSkypeアカウント「nedugov99」に結び付けることができます。プロフィールによると、この人物はRostov-on-Don在住ですが、前述のとおりscat01によるYandexのレビューは、Rostov-on-Don近郊の小さい町であるAksayから投稿されていました。
さらに興味深いことに、彼は「Gameshack[.]ru公式グループ」をフォローしており(あるいは、管理者なのかもしれません)、図20〜21に示したYouTubeプロフィールには、このグループへのリンクが記載されていました。
ここでは、「Rostov-on-Donですか?この人物は図21~22でイタリア在住になっていたのでは?」と不思議に思う方がいらっしゃるかもしれません。その答えを見つけるには、EgorのInstagramページにアクセスする必要があります。
InstagramとFacebookの彼のアカウントを見ると、確かに彼はイタリアに住んでいたことがあるようです。
ここでもう1つ、別の可能性を考える必要があります。調査をここまで進めた段階で我々が考えたのは、「scat01とSoftEgorkaが別の人物である可能性はないか?前者がマルウェアをコンパイルし、後者がGameshack[.]ruポータルで「ホスティング」しているのではないか?」ということです。gameshack[.]ru経由である点と、接続した場所に共通点があることは確かですが、両者が友人で同じ地域に住んでいる可能性はないのでしょうか?
我々は、図29に示すcsgo-stats[.]netのプロファイルに、もう1つの手掛かりを見つけました。ユーザー名「scat01」のユーザーは「Egor」(ロシア語:Егор)と名乗っていますが、 「Egor」がロシアでは珍しい名前である点に注目する必要があります。
また、同じ人物のプロファイルが他にもたくさん見つかりました。地下フォーラムの情報によると、この人物は、アカウントの不正取得、カードの不正使用、マルウェアの配布、さらにはフォーラムの仲間に対するフィッシングや詐欺にも関与しています。地下フォーラムでこの人物のほぼすべてのアカウントが最終的に禁止されたのはそのためです。
FortiGuard Labsは、進行中のDeathRansomとVidarマルウェアの攻撃に大きな関連性があるという確証を得ました。両者には、命名パターンと使用しているインフラストラクチャという共通点があります。また、VidarサンプルがDeathRansomマルウェアをダウンロードしようとした証拠も見つかりました。
「scat01」というニックネームの人物は、最近のDeathRansom攻撃だけでなく、他の攻撃にも関与していると我々は考えています。また、配布されたマルウェアにはロシアとの強い結び付きがあることを示す証拠も見つかりました。
ロシアの地下フォーラムに残された証拠に基づき、これらの不正攻撃の背後にいると思われる人物を特定することができたのです。
この記事に記載されているいずれのサンプルも、FortiGuardアンチウイルスエンジンによって検知されます。
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FortiGuard Webフィルタリングサービスは、以下のURLを不正としてブロックします。
iplogger[.]org/1Zqq77
bitbucket[.]org/scat01/
scat01.mcdir[.]ru
gameshack[.]ru
scat01[.]tk
05b762354678004f8654e6da38122e6308adf3998ee956566b8f5d313dc0e029
0cf124b2afc3010b72abdc2ad8d4114ff1423cce74776634db4ef6aaa08af915
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4bc383a4daff74122b149238302c5892735282fa52cac25c9185347b07a8c94c
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iplogger[.]org/1Zqq77
bitbucket[.]org/scat01/
scat01.mcdir[.]ru
gameshack[.]ru
scat01[.]tk
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