脅威リサーチ
この記事は、Fred Gutierrez並びにGeri Revayの協力により作成されました。
FortiGuard Labs Research
影響を受けるプラットフォーム: Windows
影響を受けるユーザー: Windowsユーザー
影響: 侵害されたマシンが脅威アクターの制御下に置かれる。個人情報(PII)や認証情報の窃取、金銭的被害など。
深刻度: 中
悪意あるEメールやフィッシング詐欺は、多くの場合、今日的な関心事に着目し、時局に応じて計画されます。これらの詐欺は通常、カレンダーや注目を集めている問題に基づいて画策されます。被害者はその時々に関連した事柄に興味を抱くということを、攻撃者は知っているのです。脅威アクターは、全員ではないものの一部の人が餌に食いつくことを知っています。「フィッシング」という言葉の由来はここにあります。
脅威アクターの多くは数千人の標的にフィッシングメールを送信し、最小限の労力で最大限の利益を得ようとします。たとえ被害者の1%以下でも応答すれば、個人情報(PII)を入手したり、盗んだ認証情報やマルウェアその他の手段を使って組織内に足がかりを作ることができるため、大きな見返りが得られます。
このブログでは、これまでに発生したいくつかの事例を紹介します。疑わしいEメールを見分けるためにお役立てください。FortiGuard Labsが確認した最近の事例には、納税シーズンやウクライナ紛争に関連したEメールが含まれていました。これは本ブログ執筆時点において、それらの出来事が時期的に最新かつニュース性が高いことを表しています。
季節ごとのイベントや祝日と同様に、納税シーズンは毎年やってきます。時期が特定されているイベントを攻撃対象にすることで、脅威アクターは事前に準備を整え、シーズンごとに新しい標的を選ぶことができるのです。
IRS / 税金関連の詐欺に関する2件の事例を紹介します。最初の事例は、米国内国歳入庁(IRS)を装った悪意あるEメールで、マルウェア(Emotet)の配信を目的に偽装したMicrosoft Excelファイルが含まれていました。2つ目の事例はフィッシング詐欺で、書面のやり取りを通じて、ある電話番号に個人情報(PII)を送信するよう求めるものでした。
この攻撃では、「W-9 form.zip」というZIPファイルを添付されたIRSに偽装したEメールを攻撃対象に送信するところから始まります。このEメールには、すぐにファイルを解凍できるよう、メールの本文にはパスワードが記載されています。添付されたZIPファイルには、「W-9 form.XLM」というファイルが格納されています。拡張子XLMは、Excel 4.0マクロが含まれるExcelファイルです。
フォームW-9(納税者番号および証明の依頼書)とは、米国在住者が正しい納税者番号(TIN)を支払人(または仲介人)に通知するための書類です。支払人は、IRSに支払調書を提出することが義務付けられています。これがフィッシング詐欺であることを示す危険信号は、署名欄の「assistant」に大文字が使用されていないことと、「Treasury」(財務省)ではなく「Treasure」(財産)となっていることです。さらに、IRSが米国の納税者にEメールで連絡をすることはなく、すべての通信に従来の郵便サービスを使用していることも注意すべき点です。
このEメールを検証したところ、最近のブログで紹介したEmotetと同様に、ユーザーがXLMファイルを開こうとすると、マクロを有効にするよう求められることがわかりました。
このXLMファイルには、次のように難読化されたExcel 4.0マクロが含まれています。
この文書には非表示の5つのシート、「Vfrbuk1」、「Sheet」、「Lefasbor1」、「EFALGV」、「Je1」、「Je2」が含まれています。EFALGVシートには、他のシートを使ってコマンドをコンパイルするメインコードが含まれています。ユーザーの操作は必要なく、複数のリモートロケーションから自動的にEmotetがダウンロードされます。
我々が検証した別のEメールは、米国の州検事総長のオフィスに送信されていました。このEメールでは、「From(送信元)」アドレスをはっきりと確認できます。Eメールは日本にある自動車タイヤショップから送信されていました。おそらくこの店は侵害され、オープンなメールリレーに利用されていると思われます。
Microsoftは2022年1月、ExcelのBuild 16.0.14427.10000以降はExcel 4.0マクロをデフォルトで無効化すると発表しました。この機能は以前から脅威アクターに悪用されていたため、この措置は当然のこととして受け止められました。ほかにもMicrosoftからの良いニュースがあります。2022年4月から、VBAマクロ(これもEmotetに悪用されています)を無効化することで、Access、Excel、PowerPoint、Visio、Wordでのマクロの使用を制限するということです。しかしながら上記の例でも分かる通り、攻撃者がまだExcel 4.0のマクロを悪用することを少しもためらっていないことがわかります。
さらに、管理者はグループポリシー、クラウド、およびADMXポリシーを設定して、Excel 4.0マクロの使用を制御することもできます。この機能は2021年7月に導入されました。詳細については、Microsoftの技術コミュニティページ「Restrict usage of Excel 4.0 (XLM) macros with new macro settings control」(新しいマクロ設定によるExcel 4.0(XLM)マクロの利用制限)をご覧ください。
注意すべき点は、上記の被害者は意図的に標的にされたわけではないということです。Emotetは、業界で「spray and pray」(ばらまき型)と呼ばれる戦術を使用しており、悪意あるEメールを介して拡散します。過去にはEmotetが他のマルウェアの亜種を配信したことも判明しています。そのうち最も破壊力が大きいものはランサムウェアでした。一部のRansomware as a Service(RaaS:サービスとしてのランサムウェア)グループは、政府機関、防衛産業、その他の重要なインフラストラクチャ(病院など)にはランサムウェアを送信しないという明確なポリシーを設けています。しかし多くの場合、実際の攻撃を実行するのは、RaaSグループが設定したポリシーを遵守するかどうか分からないRaaSアフィリエイトです。
最近確認されたもう一つの詐欺は、「NEW YEAR-NON-RESIDENT ALIEN TAX EXEMPTION UPDATE」(新年度非居住者入国税免除の更新)という件名のEメールです。このメールには「W8-ENFORM.PDF」というファイルが添付されています。このPDFファイル自体は悪意あるものではなく、IRS W-8フォームのコピーです。単なるIRSのW-8フォームですが、犯罪者によってこの書類の最後にある番号が付記されています。
本文に見られる文法の間違い、誤字、句読点などがこのEメールの危険性を示しています。
この詐欺は「正式」な記録開示に基づいて、言葉巧みなソーシャルエンジニアリングを使って米国の非居住外国人を標的にしています。ただし、奇妙な間違いも見られ、次のような矛盾する記述があります。
「if you are a USA citizen and resident, this W8BEN-FORM is not meant for you…」
(あなたが米国市民かつ米国居住者である場合は、このW8BENフォームを使用しないでください。)
続いてEメールには、返信方法や、添付されたフォームに受信者が米国市民 / 居住者であることを明記する方法が記されています。この手順が完了すると、脅威アクターは別の記入フォームを提示します。
フォームへの記入が済むと、そこに記載されたすべての個人情報は806の電話番号に送信されるようです。806はテキサス州の市外局番です。本ブログ執筆時点では、この番号で実際のファックスサービスを利用できます。このサービスがインターネットベースであることはほぼ確実で、世界中のどこにいてもコンテンツを受信し、添付ファイルとして脅威アクターに送信することができます。返信者が多数の場合は、OCR(光学式文字認識)の画像技術を使用して、被害者のデータを後から利用できるようデータベースに保存しておくことができます。
このケースでも、IRSがEメールでの公的な連絡を行っていない点に気づくことが重要です。正式なW-9フォームはIRSのWebページで入手できます。正式なW-8フォームはこちらで検索できます。
時事的な関心事(スポーツや納税シーズン)などを利用するスパムの一般的な手法では、金銭でクリックを誘い、人間本来の欲につけ込み(税還付、無料でもらえるお金)、すぐに行動させるため時間を制限して心理的に追い詰めます。
以下の事例では、3つの手法がすべて使用されています。ただし、その方法は非常に特異で、「URGENT RESPONSE REQUIRED! (UKRAINE)」(至急対応を求む!(ウクライナ))という件名で他者への送金を必死に嘆願するというものです。
Eメールに悪意ある添付ファイルやリンクは含まれていませんが、詐欺師は返信を要請しています。この攻撃のやりとりにはおそらく、さらに情報を得るためのフォローアップメッセージも含まれてきます。脅威アクターが被害者と対話し、電信、サードパーティの支払いプロセス(Venmo、Zelleなど)、あるいは暗号通貨などでの送金を依頼する可能性あります。送信者のEメールアドレスにはgmail.comが使用されており、これはスパムフィルターを回避するためと思われます。
次のスクリーンショットは、不届きな便乗詐欺のEメールで、「URGENT DONATION RESPONSE FOR WAR REFUGEE CAMP IN UKRAINE」(ウクライナの戦争難民キャンプに緊急支援を)という件名が付けられています。このメールは信頼できる組織、すなわち国連からの通信を装っています。危険信号は、「From(送信元)」の「info@seca[.]cam」が国連高等弁務官事務所の偽のメールアドレスであることと、文法や句読点に間違いがあることです。さらに、seca[.]camドメインが数週間前(2022年2月23日)に登録されたばかりであることも、危険を示す証拠です。
ビットコインウォレットのアドレスを確認すると、これが2021年9月29日に取引を開始した有効なウォレットであることがわかります。この詐欺が最初に発見された3月7日以降に、このウォレットで複数のトランザクションが実行されています。本ブログ執筆時点で、このウォレットの残高は46.82ドル、トランザクションの総額は712.79ドルです。このウォレットが不正な目的で使用されていたとすると、脅威アクターはさまざまな詐欺行為によって少額の利益を得ていたと思われます。ただし、詐欺師のウォレットはこれだけではない可能性もあります。IRSの場合と同様に、国連が寄付を募るために一方的なEメールを送信することはありません。詳細についてはU.N. Fraud Alertページをご覧ください。
ウクライナの悲惨な状況が伝えられる中、ランサムウェアグループ内部での対立が明らかになってきました。ロシアに同調するランサムウェアグループもあれば、西側を支持するグループもあります。ある有名なRaaSグループ(Emotetを使用していた)は、明白な理由により公表しませんが、ロシアに向けられたすべての攻撃に対して西側諸国は報復を受けることになるだろう、という非常に強い声明を出しました。
情勢は流動的で、まさに今この瞬間に、金銭的または政治的な理由で侵害された政府機関がランサムウェアに感染したり攻撃されたりしているかもしれず、この脅しが論外であるとは言い切れません。重要な点は、もはや政府機関のような重要部門も攻撃(特にEmotet脅威アクターからの攻撃)の対象外ではなく、そこに偏った思想や意見の違いは関係していないということです。
フィッシング詐欺は影を潜めているわけではありません。フィッシング詐欺は脅威の構図に組み込まれており、攻撃者の武器の一つとして常に利用される可能性があります。なぜなら、フィッシング攻撃は投資利益率が非常に高いからです。巧みな表現で、添付ファイルを開く、リンクをたどる、部外秘や機密情報を返送するといった行為にユーザーを誘導するEメールは、常に一定割合の標的に効果を発揮します。その原因は、セキュリティソフトウェアが対処できない大きな弱点、すなわち人的要素にあります。
トレーニングプログラムがユーザーに対して、悪意あるEメール / フィッシング / スピアフィッシング詐欺への注意を絶えず喚起し、それらを阻止する方法を通知するのにはそれなりの理由があります。数千人の標的のうちわずか数人が応答するだけで、攻撃者にとっては非常に大きな価値があります。狙い通りの人物が罠にはまれば、貴重な情報が攻撃者の手に渡り、さまざまな目的に悪用されます。このような詐欺は一般によく知られ公表もされていますが、今も広範囲に行われています。そこには、この詐欺が成功を収めており、当面の間は成功し続けるという純然たる現実があります。
脅威アクターは数字のゲームをしています。ごくわずかなコストで1,000通のEメールを一斉送信し、それに応じた10人から貴重なデータが得られれば、費やした労力は十分な投資利益を生みます。
フォーティネットのお客様は、FortiGuard Webフィルタリング、アンチウイルス、FortiMail、FortiClient、FortiEDR、CDR(コンテンツ無害化)サービスによってサイバー攻撃から保護されています。
Excelサンプル(Emotet)内の悪意あるマクロは、FortiGuard CDR(コンテンツ無害化)サービスによって無害化されます。
FortiEDRは、振る舞いに基づいて、悪意あるExcelファイルとEmotet関連のファイルを検知します。
このブログで紹介した攻撃に関係するすべてのURIは、FortiGuard Webフィルタリングサービスによってブロックされます。
悪意あるExcelサンプルとそれに関連するダウンロードファイルは、以下のウイルス名で検知され、Fortinetアンチウイルスサービスによってブロックされます。
“XML/Dloader.802!tr, “W32/Emotet.C!tr", “W32/Emotet.CV!tr”, and “W32/Emotet.1150!tr” are blocked by the FortiGuard AntiVirus service.
非居住者を標的にしたIRSフィッシングメールは、以下のウイルス名で検知されます。
IRS PDF/Fraud.10F1!phish
URGENT RESPONSE REQUIRED! (UKRAINE) 攻撃
ecres231[.]servconfig[.]com
Is classified as a spam server and is blocked by our Web Filtering client.
これはスパムサーバーとして分類され、フォーティネットのWebフィルタリングクライアントによってブロックされます。
URGENT DONATION RESPONSE FOR WAR REFUGEE CAMP IN UKRAINE 攻撃
seca[.]cam
これはスパム送信元として分類され、Webフィルタリングクライアントによってブロックされます。
フォーティネットは、ユーザーがフィッシングの脅威を理解し検知するためのトレーニングに役立つさまざまなソリューションを用意しています。
FortiPhishフィッシングシミュレーションサービスでは、実際の攻撃をシミュレーションして、フィッシングの脅威に対するユーザーの認識や備えをテストするほか、トレーニングでユーザーがフィッシング攻撃の標的にされた場合の適切な対処を学び強化します。
これらの保護に加えて、無償のNSEトレーニング:NSE 1 – 情報セキュリティ意識をエンドユーザーが受講することを推奨します。このトレーニングには、インターネットの脅威に関するモジュールが含まれ、エンドユーザーが様々なフィッシング攻撃を識別して防御する方法を学習できるようになっています。
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